押しかけ夫

私達夫婦は今年結婚12周年を迎えるが、二人の馴れ初めについて少し書こうと思う。
私が夫に会ったのは、私の派遣先の会社で、当時私は24歳、夫は38歳であった。丁度私は実家を出たところで、独り暮らしの新鮮さが楽しく結婚を考えるような歳では無かったし、パートナーも必要としていなかった。

そんな中、同僚の男性Sさんに飲みに誘われたのだが、その時に同席していたのが私の現在の夫である。飲み会もSさんと話が盛り上がり、角っこにいる夫は特に何かしゃべるでもなかったので印象らしい印象は無かった。
そんな翌日夫から、食事の誘いがあったのには、正直驚いたというか首を傾げた。後に知ることになるが、夫はどういうわけか、(私は余り男性受けしないだけに、かなり不思議であるが)元々私の事が好きだったらしく、Sさんに紹介を頼んでいたらしい。夫の知的で優しそうな雰囲気が好みと言えば好みだったため、本当は行きたかったが、自分に自信の無かった私はその時は、誘いを断ってしまった。
そんな誘いを何度か断るが、「一度くらいは行ってみるか」という気持ちになり、食事に行くことにした。

しかし食事に行くなり、入籍や引っ越しはいつにするか、「うちの親父には事後報告で良いけど、今週末にでも君の両親にご挨拶して、入籍届出してこよう」等、全くついていけない会話となった。私も落ち着いて「色々焦って決める事ではないから」と諭したが余り通じていなかったようである。
次の日には婚姻届けを持ってくるなど、その行動には驚きであった。何となく私はこの人と結婚するかもしれないと、嫌な予感を感じるようになってきた。
そんな中でも彼の独特の楽天性やユーモアのセンスは楽しかったので、軽い気持ちで彼との付き合いは始まった。だがあくまでも私も若く、余り深い意味のある付き合いでは無かった。

事が急展開したのはゴールデン・ウィークの前である。全日程一緒に過ごそうと彼から言われた私は、さすがに重く「まあ一度くらい、ランチでもしようよ」と言うと、彼は自分に対する気持ちが足りないと、ひどく怒っていた。申し訳なかったが、やはりそう真剣では無かったので、かわいそうに想いながらも黙って彼の、不満やらを聞き流し、GWは一人ゆっくり過ごせたらと感じていた。

次の日、大きな紙袋を二つ持った彼が私の家にやってきた。ズカズカ入ってくるなり、「今日からここ住むよ」と言ってきたのである。
やんわり追い出そうとした私だが、「そうしたらテントはって家の前で住むっ!」と言われ仕方なしな半同棲生活が始まった。

その後も結婚指輪も無理やり買ってしまう、三重から東京にやってきた義父に無理やり遭わされる等、着々と結婚に向けて話が進んで言った。
まだまだ結婚に煮え切らない私に、夫は「はよ結婚しようよ~」と楽天的にも言いながら「モタモタしてると、いつかバナナのたたき売りになるよ」「今が株で言う最高額なんだからここで決めないと」等、恐ろしい事も何度か言われた。
しかし結婚の決め手となった一言は、「いい加減あきらめて、手短なところで決めとき」だった...いい加減あきらめる。手短なところで決める。それが結婚の極意なのかもしれない...

そんなこんなで、婚姻届けを提出する役所でも「結婚したくない!!」等言っていた私だが、色々と尽くしてくれて、懸命に働いてくれる主人に感謝しているし結婚してよかったと思っている。

「押してダメなら押しかける」という様な夫のやり方は進めないが、結婚したい人たちに是非とも進めたい言葉か、いい加減あきらめる事、手短なところで決めることである。白馬の王子様はやっぱり現れない。